著:高森顕徹 朗読:鈴木弘子
就職活動
私は“どうぞ!”の一言と、そのほほ笑みに、すっかりほれこんでしまったのです。
「どうぞ」の一言とほほ笑みに、すっかりほれこんでしまった
向かいの家へ、新婚夫婦が引っ越してきた。
「どうせ、このごろの女ですもの、ロクな近所づきあいもしないに決まっていますよ」
奥さんが主人に話している。
それから一週間ほどたったある日。
その奥さんが、赤ん坊を抱いて表へ出ていると、ちょうど、うわさの嫁さんが帰ってきた。
「お寒うございます」
と、あいさつしてから、
「まあ、おかわいらしい赤ちゃんですこと! ばあ! まあ、あんなに笑って!」
と、やさしい笑顔で、赤ちゃんをあやした。
するとどうだろう。
その晩、例の奥さん。
「ねえあなた、他人ってわからないものねえ。今度、お向かいへ引っ越してきた新婚さんねえ、案外、感じのいい方だわ。私、すっかり好きになってしまった」
と、ニコニコしながら、主人に話したという。
最近、あるデパートの食堂に働いていた、ウエートレスのA子さんが、一躍、某富豪へ、お嫁にもらわれていった実話がある。
A子さんを見初めた、某富豪の老母の話を聞いてみよう。
「私が、あそこの食堂で、ちょっとした食事を注文したとき、運んできたウエートレスが、〝どうも、おまちどおさま〟と言って、お膳を私の前にすえ、さらに〝どうぞ!〟と軽く、ほほ笑んでみせました。
その笑顔も、決していやしい媚びではなく、本当に女らしい愛嬌でした。
たいていなら、〝おまちどおさま〟と言って、ただそこに置いていくだけなのに、その人は、〝どうぞ!〟と言って、チャンと前へすえ直してくれました。
私は〝どうぞ!〟の一言と、そのほほ笑みに、すっかりほれこんでしまったのです」
女の未来は、やさしい言葉と愛嬌にかかっているようである。
- 小を軽視する者は大を失う (大北鉄道会社社長 ジェームス・ヒルの言葉)
- この峠が楽に越されたら、だれでも越して商売するから、あまりもうからないのだ。この峠が、もっと高くて険しければ、だれも、この峠を越えて商いをする者がいなくなる。それを越していけば、商売は大繁盛するのだ。 (江州商人の言葉)
- 人間の卒業式は葬式と心得よ。何事も、それでなければ成就できないぞ。 (品川弥二郎の言葉)
- 彼は一葉の紹介状も持参しなかったが、実に多くの、明白な紹介状をたずさえていた。 (ウールウォース商会幹部の言葉)
- お草履は手前のご主人、お風邪を召しては大変と存じまして……。 (木下藤吉郎の言葉)